国立天文台三鷹キャンパス特別公開見学記
~あなたも研究者のお話を直にきいてみませんか、きっと楽しい1日になりますよ~

「ん!天文台が無い?」

 中央線武蔵境駅からバスで15分ほど住宅地の中を走るとバス停「天文台前」に着きます。学生や家族連れの人達と一緒にバスを降りて見渡すと、天文台らしきものが見えません。周りの人を見ると私と同じようにキョロキョロ探しているようです。見えるのは住宅と林だけ。どこだろうと思った時に、道の反対側に案内の方が立っているのが見えました。何と、林と思ったのは天文台入り口前の小さな雑木でした。雑木の脇を通ると天文台の広い正門の向こうには大きな建物が見え、公開日という事でたくさんの人が集っていました

中は人でいっぱい

 建物の中に入ると予想以上にたくさんの人で一杯です。聞けば地元の人が毎年楽しみにして来るそうで、一部の天文ファンだけのものでは無い事が分かります。研究発表というと何か難しいもののように感じますが、お母さんに手を引かれた子供からお年寄りまで、パネルやテレビモニターを珍しそうに見ています。私は何はともあれ当店製作のパズルがどうなっているのか気になり、受付で紹介された展示場所に行きました

研究者の方は何でも自分で作ってしまう ?

 ありましたありました。パズルの前は順番待ちの人まで居るではありませんか。ご担当の伊吹山様に伺うと、昨年、パズルを展示したらとても人気だったので今年は増やしたとの事でした。昨年は何と皆さんで手作りされたそうです。ジグソーの線もとてもきれいにカットしてあって、研究者の方は手先の器用な方が多いのかもしれません。見学の学生やアベックの女性もパズルに一生懸命ですし、子供連れのお母さんが子供と一緒になってパズルをやっているのを見ると嬉しくなりました。
伺ったお話では、観測や実験の場合には何かしら装置を自作することは必須なので観測系の人は器用かもしれないとの事でした。最近ではコンピュータや半導体関係のほうも重要になっていて、半導体の電波受信機を自作(集積回路を作るのと同じような手順を踏む)する人がいたり、また東京大学の天文学科では何とコンピュータのLSIの設計図をひいてしまう人までいるそうでおどろきです。

クイズの前も人でいっぱい

 廊下には2枚、たくさんの銀河が写った写真があり、クイズになっています。普通の光で写した銀河の画像と赤外線で写した同じ銀河の画像です。赤外線で写すと普通の可視光線では見えない銀河が見えるという事で、クイズの内容は「さて、赤外線の観測で初めて見つかった銀河はどれでしょう?」という内容です。5分ほど2つの写真を見比べて探しても見つからないので困っていると、ご担当の方がヒントをくれました。(ヒントの内容は内緒) すると、ありましたありました。ご褒美に絵葉書のセットをいただきました。最近では、この見比べる実際の作業は人間が行なうのではなく、コンピューターを使ってずっと早く行なえるそうです。

ハワイの巨大望遠鏡を日本で操作?

 パズルの展示から入った部屋では、テレビモニターの前に人が一杯になっています。天文台の伊吹山様のお話では、テレビモニターに写っている星の画像と話をしている人物の画像は、今まさにハワイのすばる望遠鏡で観測している銀河とハワイで実際に研究されている方だそうです。インターネットを使って日本から遠隔操作で観測する事もできるそうです。この最新鋭のスバル望遠鏡は一度にたくさんの星を観測したりできる優れもので、さらには、鏡のほんの小さなゆがみもコンピュータ制御で補正できるようになっているそうです。(この記事を書いている時に「スバル、また遠い星を発見」のニュースがテレビに流れました)
さらに廊下を進んだ講義室では講演が始まっていました。宇宙の起源の話でしたが、とても楽しい話で部屋の中は人でいっぱいです。立ち見の人も入り切れないほどでした。

広い! とても都内とは思えませんッ

 建物を出て、林と芝生の中の道を歩きます。すると次々と建物やドームが見えてきます。「何が入っているんだろう?」好奇心一杯で覗いてみました。太陽フレア望遠鏡、自動光電子午環、図鑑で懐かしい65cm赤道儀式屈折望遠鏡、光赤外干渉計、などなどたくさんの装置がありそれそれにご担当の方が居て説明していただけます。皆さん、ちょっとした質問にもていねいに説明して下さいます。お話されている方のお顔を拝見していると、それだけでも嬉しくなりますよ。

あこがれの65cm屈折望遠鏡

 私が子供の頃、国立天文台の65cm屈折望遠鏡は夢のような存在でした。天文関係の図鑑には必ずと言って良いほどその写真が掲載されていました。当時は望遠鏡を持てるのはごくわずかの人に限られていて、一般の学生はそれぞれに工夫して手に入れたレンズを使って自作する人が多かったように思います。(年がばれる (^^; )今は、20cm程度の反射式望遠鏡でしたらサラリーマンの初任給でも買える様になったのですから夢のような時代になったものです。

昔の研究者は計算で腕力を鍛える ?

 憧れの65cm赤道儀式屈折望遠鏡のドームは、今や展示室になっていていろんな展示品を見る事ができます。私が興味を持ったのは、写真でしか見た事の無かった手回し式計算機でした。実際に動かして計算を出来るようになっています。最初はちょっと手間取りますが慣れるとけっこう簡単に使用できます。でも、計算の一桁ごとに何度もクルクルと回さなければならず、きっと天文の研究で膨大な数の計算をするためにこれを使い続けた人は随分と大変だった事でしょう。
伺った話では、今でも研究者の方の中にはお酒が入るとなつかしそうに手回し計算機の思い出を話す人がいっぱいいらっしゃるそうです。ちょっと若い世代になると電子計算機に入力する「パンチカード」を使ったという話になるそうです。ちなみに手回し計算機を回すのが早いか遅いは研究効率に結構影響するので、腕力が鍛えられるとの事でした。こんなお話、ちょっと天文学と言う言葉から想像してなかったのでビックリです。

「子午環」って何 ?

 大きなドームを入ると、ドームの大きさに比べてとても小さな望遠鏡が入っています。しかも、この望遠鏡は上下にしか動かせません。この、見た感じはとってもシンプルな望遠鏡は子午環と言って緯度・経度の座標や星の絶対位置の測定に使うそうです。鉄の塊のように丈夫に作られた子午環が風が吹くと揺れて観測できない話とか、ドームが大きくないとドーム内外の僅か1℃程度の温度差で観測がしにくい話か、星が横切る時の基準に蜘蛛の糸を使っている話など、ご担当の方に説明していただきましょう。女の子のグループも楽しそうに話を聞いていました。

その他にもたくさんの施設

 構内には、当然ですが、たくさんの望遠鏡のドームだけではなく研究施設の建物がいくつもあります。これらの建物の中では多くの研究が行なわれているそうですが、その内容は、この三鷹キャンパスの施設だけでなく、日本各地、さらにはハワイの口径8.2m反射式の「すばる望遠鏡」やチリ・アカタマ高地のミリ波サブミリ波干渉計を使っての研究も行なわれているそうです。日本だけでなく世界各地から宇宙に向かって様々に日本の目が向けられている事が分かります。

 ほかにもたくさんの研究内容や珍しいお話をたくさん伺う事ができましたが、ぜひ皆さんご自身で見学されて体験する事をお勧めします。毎月2回、50cm反射式望遠鏡を使っての定例観測会も行なわれているようです。 三鷹キャンパス見学について

 伊吹山様、多くの研究者の方・学生さん、丁寧に説明していただきありがとうございます。そして国立天文台の発展に尽くされた多くの方に御礼申し上げます。さらには、天文台周辺の夜空が少しでも暗くなるように夜間の照明に気を遣っていただいている地域の方にお礼を申し上げます。(ちなみに夜間の天文台構内は足元が暗くて見えないそうです。東京都内では珍しいのではないでしょうか)

 帰りのバスは、「天文台前」から三鷹駅行きに乗りJRで帰途に着きましたが、途中には吉祥寺・新宿もありますから楽しい休日を過ごすにはなかなかお勧めのコーズです。(京王線経由では、調布駅北口からもバスがあります。)


(以上は200310月時点のデータです)
記事: マングース店長 渡辺良朗